カッターで芯を尖らせる度に
摩耗していくえんぴつ
汚れた手をきれいにする度に
使い古されひび割れる石鹸
僕らは
何かを得る為に
何かを犠牲にして生きている
それは素晴らしいことだと
夜の勢いでぎゅっと握りしめたこの拳の中身が
朝になるといつも泡のように消えてしまっているけど
そうやって握りしめたという事実に
僕はまだ
安心できているのだ
一路
人はいびつな円
その円は
様々な方向へ広がり違う円と繋がって
まるで大きな葡萄のようになるのです
幾つもの葡萄の房は社会の蔓に垂れ下がり
熟すも枯れるも
土次第
一路
東京の風は
さよなら混じりの冷たさと
よくわからない期待を与え
弱い僕らを
なんとなく生きさせようと通り過ぎていくから
僕は厚着をして
今日も街を歩くのです
一路
真っ暗な
排水管を流れる水は
沢山の水垢を残します
その水垢が思い出だとすると
流れている水は感情か
渦を巻き
感情を吸い込むことをやめない排水口が
心の入り口だとしたら
僕は毎日
それに手を突っ込み
中にこびり付いた思い出を
そぎ落とそうと躍起になっているのです
流され消える思い出と
またこびり付く感情から生まれる思い出
つまり
心の墓場は海だ
一路
多分この世の中は
少しくらい捻くれてるほうが
生きやすいんでしょう
多分この世の中に
何か残すには
姑息さも必要なんでしょう
だから
朝靄のような心の中で
微かに見え隠れしている真っすぐで純粋な一直線を
僕は軽く撓る長い棒に変化させ
日常という綱の上を
はらはらと
はらはらと
渡るのです
葛藤という鉄板を背負い
今夜も綱渡りをする僕はまるで
サーカスのピエロだ
一路
僕は街にしゃがみ込んでいる
誰も知らない
ビルの裏側でしゃがみ込んでいる
つまり
コーヒーに注いだ砂糖のように
僕は街に溶けているということだ
雑踏は夜に押しつぶされ
影は闇に埋もれ跡形もなく消え
足音は裸で走り回っている
この不安はこの街で
僕は知りたい
僕は知りたい
僕は街にしゃがみ込んでいる
一路
痺れたユビィの先端で
なぞった心の輪郭を
なんとか言葉で
言い当てる
痺れたユビィの先端で
指揮する心の煽動を
なんとか言葉で
食い止める
僕らが僕ららしくあるための
悲しい夜のセンシティブ流星群
しゅんしゅんと
飛べるとこまで
飛んで行ってしまえ
一路